主な注意事項と設計に役立つアドバイス

ヒーターの事故・故障・断線の90%以上は容量の選定や使用方法によるところが大です。
これらを防ぐために主な注意事項を示します。
また、より良く使用するためのアドバイスをお読みいただき、
製品及び商品の設計にお役立て下さい。

◆クリアランスは少なくする

空気は熱伝導が悪いので、断熱の役目を果たします。
ヒーターと挿入穴のクリアランスが多いと、空気断熱によりオーバーヒートします。クリアランスは少なくすることが寿命を延ばす要素です。
〈スタンダードカートリッジヒーター〉 ●2〜3W/㎠:0.2㎜以内 ●4W/㎠:0.1〜0.15㎜ ●5〜6W/㎠:0.05〜0.1㎜
〈ハイワットカートリッジヒーター〉 ●6W/㎠まで:0.2㎜以内 ●6〜10W/㎠:0.1〜0.15㎜ ●10〜15W/㎠:0.05〜0.1㎜ ●15W/㎠以上:0.05㎜


◆ON、OFFの回数を少なくする

ON・OFFが多いと、抵抗線の表面にできる保護膜を突撃電流が剥し、その繰り返しで抵抗線が痩せ細って断線します。
◎1分間に1回以上の場合は、容量の70%でご使用下さい。
◎10分間で1回以上の場合は、容量の75%でご使用下さい。
◎1時間で1回以上の場合は、容量の80%でご使用下さい。


◆ワット密度(表面負荷)を小さく取る

◆ヒーターの配列は適正な間隔で

ヒーター間の距離が狭すぎるとオーバーヒートを起こし、離れすぎると温度バランスが悪くなります。ヒーターの配列は寿命を延ばすのに重要な要素です。



◆ヒーターは、湿気を嫌います

ヒーターに使用されている絶縁物は、湿気を吸着し易いマグネシヤ(酸化マグネシウム)を使用しています。無機酸化物で吸湿性の無い物質はありません。一般的にヒーターに使用されている湿気防止剤は、シリコンワニス、シリコンゴム、シリコンオイル等シリコン系有機材を使用しています。ヒーターは発熱しますので、有機材の使用温度にも限界があり、当然防湿効果もうすれて吸湿します。長期間未使用や機械に取り付けて通電まで長期間放置した場合や雨期等では絶縁抵抗値が下がり、感電の恐れがあります。ヒーター表示以下の電圧を印加して100℃以上300℃以下ぐらいで自己回復させるか、乾燥炉等に入れて絶縁を回復させて下さい。保管場所には十分配慮して下さい。



◆警告 -安全にお使いいただくために-

◎使用前に湿気を除去して下さい。(特に雨期、冬期) 感電の恐れがありますので、電圧を下げ、予備加熱で100℃以上に上げて乾燥させた後にプレーカーを入れて下さい。保管には乾燥剤の使用が望ましい。
◎強い衝撃などにより破損したと思われる時は使用しないで下さい。異常発熱を起す恐れがあります。
◎発熱中に水につけたり、濡らさないで下さい。 火傷や感電の恐れがあります。
◎発熱中は燃え易い物は近づけないで下さい。 火災の原因になります。
◎アースを確実に取り付けて下さい。 故障や漏電のときに感電する恐れがあります。
◎ヒーターの組み込みや配線作業には電源を切ってから行って下さい。感電や火傷の恐れがあります。
◎誤配線や接続端子の絶縁不良等無いか確認作業を行って下さい。感電や火災の原因になります。



◆より良く使用するためのアドバイス

我々の祖先は火という素晴らしい発見をし、今日迄幾多の変遷をへて電気の熱という近代的な発熱源を生み、その発展は目を見張るものがあります。そして以下の理由により、あらゆる産業界で電熱が使用されています。


【電熱が使用される理由】

▶加熱装置が簡単で取り扱いが容易
▶燃焼に比べて作業が簡単で清潔
▶温度制御が簡単
▶急速加熱や局部加熱が容易
▶空気を必要としないので真空加熱が可能

電熱の加熱方法には、加熱原理より分類すると抵抗加熱、アーク加熱、誘導加熱、誘電加熱の 4加熱方式があり、一般的にヒーターと呼ばれているのはニクロム線を用いている抵抗加熱方式です。
ヒーターにはシーズヒーター、カートリッジヒーター、角コイルヒーター、マイクロ(細管) ヒーター、マイカヒーター、シリコンラバーヒーター等があり、これらニクロム線を使用したヒーターは断線という宿命を荷っています。容量や使用方法如何によって寿命の長短が左右されます。ヒーターをより良く使用する為にどのような点に注意すべきかを、コンパクト化された為に濃縮して容量を詰め込まれたヒーターの中でも製造方法や使用方法が難しいカートリッジヒーターについて述べます。


【カートリッジヒーターの種類と構造】

1. LOW-WATT-CH〈ローワット(スタンダード)カートリッジヒーター〉➡低温度使用
 ・軸方向に4~6ケの穴のあるムライト質・マグネシア碍子にコイル状のニクロム線を通した構造。(下図-左)
2. HI-WATT-CH〈ハイワットカートリッジヒーター〉➡高温や過酷な条件で使用
 ・ニクロム線をシース内壁の近いところに埋設し絶縁物粒問の熱伝導の悪い空気層を少なくする目的で減径加工を行ない、ニクロム線が発生した熱をヒーターに留めず速やかに外に放熱させる構造。(下図-右)



【ヒーターの寿命】

ヒーターには絶対という言葉はありません。使用方法によって寿命の長短が決まります。
製造上のミスによる断線は2~3日で生じ、遅くとも一週間以内です。それ以上で生じた場合は指示容量が高すぎるか使用方法が適切でない事が挙げられます。特に高温、真空、放射等過酷な条件下では注意が必要です。また、低温とはいえヒーター配列やクリアランス等を無視すると寿命は短くなります。
桃山時代の焼物に志野焼があります。紬の志野長石は1300℃ぐらいで溶けますが、桃山時代は 窯の効率が悪く5~6日ぐらいの日数をかけて紬の志野長石を溶かします。この時の窯内の温度は 1150℃ぐらいです。温度が低くとも長時間かけると高温と同じになります。又、耐熱250℃の4弗化テフロンリード線が入ったSUSフレキシブルコンジェットを150℃ 雰囲気中に配線すると24時間で溶けた例もあります。これらのように温度が低くとも高い温度と同じ作用をします。


【熱の伝達】

熱の伝達には以下の3つがあります。
❶熱伝導(Conduction of heat) ❷熱対流(Convection of heat) ❸熱放射・輻射(Rodiation of heat)
カートリッジヒーターにとって寿命の良い伝達方法を順に並べると
1)伝導 被加熱物に穴を開けてヒーターを挿入して使用する方法です。断線になる要因として高い使用温度、クリアランス、配列、ON・OFF等です。
2)対流 空気やガス等を強制的に対流を起こさせる加熱です。対流が止まるとオーバー ヒートにより断線があります。
3)放射 熱伝導の悪い空気に熱を伝えさせる為、加熱では真空、空焼き高温の伝導と同じでヒーターにとって負担の大きい加熱方法です。容量を低めにしてヒーター 本数を増すか、ヒーター径を太くして断線を防ぎます。
真空中は放射で4W/㎠のヒーターがオーバーヒートをおこして倍の8W/㎠ ぐらいになります。


【ヒーター自身の寿命】

ヒーターの寿命にはいろいろな原因がありますがその中の一つにヒーターの材質が起因による宿命的な原因があります。
シース材は別にして、抵抗線(発熱体)はNi-Cr系とFe-Cr系の二種類です。絶縁材としては MgO(マグネシア)が使われています。できるだけ温度は低めで使用するのが反応を遅らす策の一つです。又、ヒーターがオーバーヒートにならぬよう被加熱物の対策も必要です。

◎Fe-Cr系抵抗線とMgO

この取り合わせの場合、Blackeingと呼ばれる寿命低下の現象があります。MgOと鉄クローム系抵抗線の中の鉄は反応性が良く、ヒーター内部の温度が500℃前後になるとMgO・Fe₂O₃又はMgO・FeO等となってMgOは灰黒色化となり導通状態となって断線します。

◎Ni-Cr系抵抗線とMgO

ニッケルクローム系抵抗線の場合、抵抗線の表面が酸化されてCr₂0₃となり表面の保護膜の役目をするが、時間の経過とともにCr₂0₃とMgOが反応を繰り返しCr₂0₃・MgO(クロマグ)となりMgOは白色から黄褐色、さらに緑色と変化します。発熱対中のCr分が低下し、耐熱度の低いNiが主体となってNiとMgOが反応して黒色化となり断線します。ヒーター内部が600℃前後よりこの現象が起こります。



【クリアランス】

ヒーターと挿入穴とのクリアランスはヒーターの寿命に著しく影響します。一般的にはヒーターが抜けなくなるとの理由で、寿命は無視して大きい穴を開けてあります。クリアランスが大きすぎると寿命に影響をあたえるのは、ヒーターより発生した熱がクリアランス(熱伝導の悪い空気層)間に次々と蓄熱され高温度の蓄熱層を形成し、飽和となって一部の熱がヒーターに戻るバックファイヤー現象となってオーバーヒートを生じ、ヒーター自身の発熱温度より高くなり断線となります。これはヒーター・クリアランス・被加熱物のそれぞれ持つ熱伝導度の違いから生じる熱の遅れが主因です。
熱伝導度とは、断面積1㎠、厚さ1㎝の両面に1℃の温度差を持つ時、物体を通って毎秒伝導する熱量をカロリーで表した表記方法で単位はCal/㎝・Sec℃で表します。図表(1)で解るように、熱伝導度の悪い空気層(クリアランス)が多ければ多いほどクリアランス間に熱蓄熱層ができ、熱の伝達に大きな遅れ生じます。蓄熱された熱は被加熱物へと、又一部がヒーターへと伝導され前記の様な結果となります。ヒーターの寿命を延ばすには、ヒーターからの発生熱を留まらぬよう放熱させることが大切です。
ワット密度(W/㎠)に対してのおおよその適正クリアランスは図表(2)をご参照下さい。



【ヒーターの配列】

プレート加熱でヒーターの配列は無視されがちですが寿命に大きな影響を及ぼします。そこでヒーターを作る立場からプレートに於けるヒータの配列について述べます。まず、ヒーター間の熱の移動を温度勾配で表すと下図のごとく表されます。



ヒーター相互の熱が重なることが少ないことが寿命を延ばすことで配列は重要な要素です。
ヒーターの製作での発熱体(ニクロム線)の線間ピッチとヒーター(プレートの発熱体)の配列は同一です。
ニクロム線の線間ピッチの選定はP≧3Dで、これは長年の経験から出た数値です。

現在、ヒーターに使用されている発熱体はニッケルクローム抵抗線(Ni-Cr)です。絶縁物は電気を通さず熱を通す絶縁低下の少ない高融点金属酸化物のマグネシア(MgO)です。長時間使用や高温度時ではこの組み合わせで反応します。
それはNi-Cr線のCrがMgOと反応してCrが減少し、耐熱度の低いNiが主体となりMgOが黒色に変化して導電体になり断線します。線間ピッチの決定は寿命に重大な影響を及ぼします。
高ワット密度のヒーターはヒーターその物が断線を早める要素を多分に持ち合わせていますので、 使用状態いかんで寿命の長短が決まります。

線間ピッチを狭く取ると下図のDlとD2の発生した合わせ熱による高い温度の蓄熱層が Dl・D2 間にできるのでNi-Cr線とMgOの黒色現象が早く進み寿命が短くなります。



線間ピッチを広く取る方が良い。しかしピッチを広く取ると同一径、長さ、容量ではニクロム線径を1段細くしないと収まらない。逆に線温が逆に1線温が高くなるので寿命は短くなります。
また、線間ピッチがバラツクと狭いところが当然高い温度になるので寿命の低下につながります。
これらの点を踏まえてヒーターの製作をしていきます。

上記の事柄はそのままヒーターの配列に置き換えられます。
そこでヒーターの使用方法にも細心の注意をはらって御使用願わなければなりません。使用方法で重要なのはヒーターの発生熱を蓄熱されずに速やかに奪い去るよう心掛けることです。この点を考慮に入れて設計なさられるよう要望します。



ヒーターの配列について例を記します。

左図の場合:
⇒ HL S≧1.5D
1.5D以下なればなるほどプレート表面から高い熱が放出され、効率も悪く、ヒーターも空焼きに近い状態となりオーバーヒートとなって寿命が著しく短くなります。
特に高温使用や真空、放射熱伝達ではこの点を考慮に入れなければなりません。
⇒ L=3D~4D
Lは等間隔にしなければ、熱の均一化は得られません。
Lの距離が広いと使用温度迄上昇しにくく、又使用温度に達するまでフルパワーをヒーターが余儀なくされる為リード線とニクロム線の接続部にダメージを与えます。特に高温時、真空、放射熱伝達では要注意です。

右図の場合:
⇒ HL S≧1.5D
⇒ HL≧3D
⇒ L≧3D
LはHL間の合せ熱があるので、狭すぎると蓄熱量が多くなるので温度が上がりオーバーヒートとなります。





設計するにあたり上記の点を考慮されることを熱望します。いろいろと記述しましたが、ヒーターの発生熱を速やかに外部へ放出することです。